人気ブログランキング |

カテゴリ:ギャラリーみつけ( 6 )

「信田さんの新作では以前のストロークが消え、セーブされた筆の動きが、筆の向かう方角でなく、周囲ににじみのような広がりを作り出している。ストロークを基軸とした仕事の延長とも見えるが、新しい何かを迎え入れようとしているようにも感じる。」

これは2005年に信田俊郎と田中幸男の2人展を新潟絵屋で企画したとき、案内状(絵屋便)に書いた文の一部だが、「ストローク」という言葉で、信田と田中の組み合わせを思いついたことが語るように、2000年代初めまでの信田の絵の筆の動きは、かなり直線的で、スピード感があった。

しかし今回の近作に顔を近づけて見えてくるそれ(筆の動き)は、もっとくねくね、ぐるぐるしていて、とてもストロークとは言えない。こういう筆の運動がいつ頃から出てきたのか。
ともあれ、そのくねくねやぐるぐるが、画面全体に拡散していかないのは、それが画面に浮遊する方形内での動きにほぼとどまっているせいで、グリッドから抜け出て遊動を始めた方形は、このぐるぐるやくねくね(不定方向の蠕動的な筆の動き)の容れ物になっている。
容れ物に目を近づけると、くねくねやぐるぐるの、素早さの中にもさまざまな変化をはらんだ動きとともに、塗りつけられる色に複雑な濃淡が生じており、ことに「淡」の部分からは、下に塗られた色がはっきりと透けて見える。つまりクレーがかなりデジタルな手法で実現した地色と重ねられる色の同時鳴動が生じているのであって、それがグリッドならぬ遊動方形の、見かけの平坦を、色彩的な奥行き(対位法的効果)よって揺るがせ、絵全体の中で一所に固定されない、顫動する光の板のように感じさせる効果が生まれている。

e0138627_23075098.jpg

アルバースには「正方形賛歌」というシリーズがある。
アントン・エーレンツヴァイクは、形と色彩対比の関係を論じながこのシリーズに言及している(『芸術の隠された秩序』)。
それによれば、形は強くなればなるほど、色彩対比を抑制する。アルバースは正方形の画面内に大きさの違う正方形を入れ子状に配することで、形の主張(強さ)を最小限に抑え、微妙な色彩同士の対比効果を最大限に引き出そうとしたのだと、エーレンツヴァイクはいうのだが、信田の方形も、方形の画面中の方形であることや、もともとはグリッドという線状の形の隙間という「弱い形」であることと、「光の場所」と題された息の長いシリーズにおける色彩の探求には、浅からぬ相関関係があるのだと感じられる。
近作の幾つかの絵では方形の輪郭が揺れるような線でなぞられたり、輪郭が意図的にぼかされるような処理がなされているのも面白い。
e0138627_22113153.jpg
探求とは、到達点のない、あるいは無限遠にある道を行くことを言う。
色、形、筆触(筆の身振り)というシンプルと言えばシンプルなもの同士の関係(相互影響)という領野には、そんな無限遠が潜んでいるらしい。
一つ一つの絵は一つの全体でありながら、部分でもあるという信田の言葉は含蓄が深い。

たまたま、今読んでいる『縄文の思考』(小林達雄)の縄文時代のモニュメント(巨大遺構)についての説明が、そんな信田の制作を連想させる。

「…未完成というのは完成を待たずに中断した結果の、見た目に映るままの中途半端な状態を示すのではなく、幾世代にもわたる工事期間中において刻々と変化し続けてきた形態の静止状態を示すだけなのである。完成の途中経過でもないばかりか、未完成のいちいちは、それぞれが完成した未完成なのである。完成をただ目標とするまでの未だ到達していない未完成というのではなく、年々歳々工事が継続する限り、刻々と変化する形態そのものが厳然たる完成であり、その完成は、次の完成までの未完成である。その静止状態は、もはや不動の存在としてあることにおいて、その時点でのカタチが外見上において未整然であっても、決して意味なしとはしないのである。…」

(O)











信田俊郎の新作展が、ギャラリーみつけで始まった。

e0138627_17174367.jpg
去年は「グリッドから」というタイトルでの近藤あき子との2人展が砂丘館であった。
今回はどれもそれ以降に描かれた大作で、彼の近年の旺盛な創作力を感じさせる。

e0138627_17214816.jpg

新潟日報の「展覧会へようこそ」で、今回の展示を企画した外山文彦も書いているが、近作の油彩ではグリッド(格子)そのものは消え、縦長の四角形たちが独立して動き出したような感じがある(その傾向はかなり以前からあった)。


e0138627_17190534.jpg
それにしても、信田俊郎の絵が、「色」をめぐって描かれるようになったのはいつからだろう。
少なくとも、それが見る側(あるいは私)にはっきり感じられるようになってきたのは、2000年代に始まった水彩の制作からだった。
私は信田のグリッドへのこだわりを、「こだわり」と感じ、むしろある種の「つまらなさ」を感じてきたので、彼の水彩画展を企画したときも、グリッドが透けて見える絵は、たぶんあまり選ばないようにした。しかし、その水彩制作からも、グリッドの影は、消える気配はなく、近年の水彩はむしろグリッドへの強い回帰が感じられる。
油彩にいたっては、彼のグリッド志向は、もはやまぎれもない。
信田の絵の基本スタイルになってきた。確立されてきたとも言ってよさそうだ。

e0138627_17190097.jpg
ただ、そのグリッドは、前記のように、グリッドというより、グリッドが縁取る方形の集合のというか遊動体のようになってきていて、今回の新作群では、その「遊動感」が大変際立って感じられる。以前にもまして。

e0138627_17180009.jpg
あまりカタカナ名の美術家と比較は不得手というか、気が進まないのだけれど、今回信田の絵を見ていて思い出した名前があった。パウル・クレーとアルバースという画家である。
1986年に新潟市美術館でのクレーの晩年の作を中心にした展示を担当したとき、クレーの絵についての研究書を随分読んだ。その一冊にクレーの絵と音楽を論じたものがあった。クレーは「対位法」音楽を愛していた。対位法とは異なる旋律が同時に進行する音楽である。音は透明だから重なることができる。しかし絵の具(ことに油絵の具)は基本不透明だから、音楽のように重なりあうことが難しい。
クレーは絵で対位法的世界を生み出すことに腐心した。「パルナッソスに」という有名な絵があるけれど、その本ではその絵が、クレーの対位法絵画探求の到達点として紹介されていた。
そこでクレーはまず、方形による色面絵画を描き、その四角の上からモザイク風の点描で、別の色面を重ねた。下の色面(旋律)と点の色面(旋律)が見るものに同時に見える。そのような「色彩対位法」を編み出したとその著者は書いていた。「パルナッソスに」という題は有名な対位法音楽の教則本の題でもあったという。
e0138627_17212906.jpg

そのことをどうして思い出したかを書こうと思ったが、時間切れでここまで。
アルバースのことはまた。

(O)



e0138627_20060009.jpg
7/12-8/20
6月にご好評いただいた「伊津野雄二彫刻展」が、ギャラリーみつけに巡回しています。
e0138627_20055245.jpg
e0138627_20055199.jpg
左「風の砦 2017」松 H107×28×24cm
中央「風待ち」楠・松 H50×16×15cm 
右「風の砦 2015」松 H162×54×48cm
e0138627_20050842.jpg
「風待ち」横から
e0138627_20050720.jpg
昼間、展示室に光がさすと、もうひとつの世界の扉が開きます。
e0138627_20055934.jpg
e0138627_20060186.jpg
「風の砦」2015年 松 H162×54×48cm
「風の砦 デッサン」2015年 78×54cm
e0138627_20060211.jpg
新潟絵屋での出品作品に、彫刻「風の砦2015」とデッサン2点を追加しました。
展示室は2部屋あります。
ここまでが展示室1。次は展示室2です。
e0138627_20052351.jpg
左「木陰の人々2」楠 H54×15×14cm
右「春の書物」楠 H50×12×15cm※売約済み 
e0138627_20051127.jpg
e0138627_20053872.jpg
左「風の音に<オーク>」ヒメコマツ H27.5×13×12cm
中央「ギフト<ヤドリギ>」檜 H25×11.5×10cm
右「木陰の人々2」
e0138627_12240880.jpeg
「風の音に<オリーブ>」ヒメコマツ H27×14×14cm
e0138627_12245460.jpeg
「記憶<森>」ボダイジュ H40×11×11cm
e0138627_20052497.jpg
e0138627_20053962.jpg
左「ゆめおくり」楠・松 H46×27×10cm
右「幕間」ヒメコマツ H20×10×10cm※売約済み
e0138627_20054052.jpg
「春の書物<DOME>」松・ヒメコマツ H33×16×11cm
e0138627_12360133.jpg
e0138627_20054847.jpg
e0138627_20055075.jpg
「そして今」楠・キハダ H37×36.5×11cm
e0138627_12213310.jpeg
e0138627_12220627.jpeg
e0138627_02301908.jpeg

「ゆめおくり」銅板・アクリル絵の具 37×14cm

展覧会では、伊津野さんの制作ノートから抜粋した言葉を紹介しています。
**

「風の砦」
ある日 砂あそびの手に 光る石をみつけ
こどもたちは きずだらけの指で
美しい石を よりわける

そして もう
こどもではない 私たちは
木をひきぬき 野原や山をほりかえす
やがて よきものだけを うばわれた大地は
毒が満ち 木々は枯れ
ただ悪臭のただよう荒地となった
そして川は干上がり 海は濁り
空は光を失った。
天地はうたう
よいものもわるいもの
わるいものもよいもの

必要な時の流れ
うちすてられたもの 残されたものもまた
地から 涌出る
2つの黒い三ヶ月のように
浄化の時をへて満月を抱く
来たるべき 風が通りぬけるようにと
すべてが わかちがたく
そのすべての命である証として
「風の砦」作者の制作ノートより

**

「春の書物」
腐葉土のような書物に
書物のような腐葉土に
おまえは生まれるか

紙片は破れ
綴じ糸は解れ
印字は掠れ
うちすてられた その書物が
わすれ去られるときに

風のページを操るように
それを ひらこうと 望むときに
深く 埋もれた 種子がめを醒ます
時が そしてあなたが望むなら

この春の書物から
「春の書物」作者の制作ノートより

**

新潟絵屋での伊津野雄二展のようす

1月13日は、ギャラリーみつけでトークイベントを行いました。

アンティエさんはドイツのゴールドベルグという町に住んでいらっしゃいます。
今回は、イーゼルの上にアンティエさんのお席をつくりました。
e0138627_08224175.jpeg
e0138627_08241568.jpeg
これまでの作品の変遷を、画像で紹介しました。
※上の写真は、新潟絵屋が解体移築する前の、オープンして間もない頃の外観です。
e0138627_08291489.jpeg
上:夜曲
e0138627_08303189.jpeg
上:Looking Inside
このときは、卵や石に描いた作品もありました。
e0138627_08324648.jpeg
トークは新作の「Dance of the Elements」に囲まれて。
e0138627_08361706.jpeg
e0138627_08363981.jpeg
e0138627_08370316.jpeg
e0138627_08372604.jpeg
e0138627_08375978.jpeg
e0138627_08385531.jpeg
e0138627_08391862.jpeg
この「Dance of the Elements」は、シリーズ1とシリーズ2で構成されており、描かれた順に作品を並べました。
作品にはそれぞれナンバーが振ってあるのです。
一点一点を描いた順に見たり、全体で見たり、組み絵で見たり、さまざまな見方ができます。
105点の中でいちばん惹かれる一点を探そうとすると、悩ましくたのしく、何巡もして、ときを忘れました…。

シリーズ1とシリーズ2の移ろいも面白いです。
シリーズ1と2の間には、「no number」があります。
e0138627_08505825.jpeg
左側の壁面の左から三列目、上から二段目がno number。
その左側の赤い絵がシリーズ1の最後
左側の壁面の左から四列目、上から二段目が、シリーズ2の最初です。
no numberは、シリーズ1の終わりなのか、シリーズ2のはじまりなのか、謎めいた一枚です。
e0138627_08582047.jpeg
「Dance of the Elements」絵巻の一部
e0138627_08592676.jpeg
e0138627_09010702.jpeg
e0138627_09030186.jpeg
最後に大きな新作を見せていただきました。
トークは日本時間14時からでしたが、ドイツでは朝の6時。
墨絵の「黄金山の日記から」に登場するアンティエさんのお家の早朝の実写映像を見ることができました。
e0138627_09095281.jpeg
e0138627_09102078.jpeg
現在の暮らしを絵と言葉で綴った「黄金山の日記から」と抽象画「Dance of the Elements」。
今回、ふたつの展示室でご紹介しています。
アンティエさんによると、「黄金山の日記から」は外側の、「Dance of the Elements」は内側の日記とお話しされ、深くうなずけました。
e0138627_09260288.jpeg
e0138627_09195088.jpeg
e0138627_09262845.jpeg
1月13日は雪が降りました。
ドイツも寒いことでしょう。
冬の間も、黄金山の川べりでは、毎夜うさぎたちの宴会が開かれているのでしょうか。
e0138627_09233843.jpeg

アンティエ・グメルス展を、1/21までギャラリーみつけにて開催中です。
今回はふたつの展示室を使い、ふたつの世界をご覧いただけます。
新潟絵屋で昨年10月に発表し好評だった絵日記風の「黄金山の日記から」と、日本では初公開となる、以前の光の絵の延長にある抽象画「Dance of the Elements」。
どちらも、ひとつの旅のようにお楽しみいただけます。

「黄金山の日記から」
e0138627_11043714.jpeg
お話のはじまりはアンティエさんの姿も描かれたお家の外観から。
e0138627_11071817.jpeg
e0138627_11144057.jpeg
e0138627_11122841.jpeg
e0138627_11085404.jpeg
e0138627_11181509.jpeg
e0138627_11165155.jpeg
e0138627_11173299.jpeg
Dance of the Elements」
100点あまりで構成されるシリーズです。
e0138627_08343050.jpeg
描いた順に展示しました。
e0138627_08363749.jpeg
e0138627_08390513.jpeg
「Dance of the Elements」は、中盤で、シリーズ1からシリーズ2へ移ろいます。
ひとつずつ順に、全体で、シリーズ毎に、といろんな見方ができます。
e0138627_08442238.jpeg
e0138627_08450513.jpeg

e0138627_08473632.jpeg

展覧会に寄せてメッセージをいただきました。
「黄金山の日記から」では、絵やお話を運ぶ、アンティエさん自身が綴った日本語がまた魅力的です。

今回は、NHK新潟放送局さまにも取り上げていただきました!
(I)


12.22から、ギャラリーみつけではじまる「アンティエ・グメルス展」の準備をしています。
抽象作品は105点の連作と、大作1点。
e0138627_04525526.jpeg
e0138627_04532743.jpeg
e0138627_04543748.jpeg
e0138627_04550478.jpeg
e0138627_04553317.jpeg
e0138627_04560279.jpeg
e0138627_04565069.jpeg
ここに、絵を入れていきます。

もうひとつ別な展示室には、墨絵とお話「黄金山の日記から」を展示します。
e0138627_05012512.jpeg
おたのしみに!
(I)