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桜のレクイエム 塩崎貞夫展 <樹下美術館・上越市>

昨年春、砂丘館で開催した塩崎貞夫展。
会期中に上越の個人美術館の杉田館長ご夫妻に連絡したのは、陶芸家・斎藤三郎と画家・倉石隆の二人の作品だけを展示するその美術館の空気と、塩崎さんの絵が、どこかで通じ合うように感じたからだった。ことに倉石隆の人間像と塩崎のそれは、何か大きいものに圧されながら支えられているようなほっそりした肢体の感じに共通点があり、だからこそ際立つ興味深い違いもあるようにも思え、展示を見ていただきたいと思った。
会期後半に新潟へ来てくださったおふたりは、本当にゆっくり絵を見てくださり、心から興味を示された。
美術館にはこれまで、斎藤と倉石の作品以外は展示したことがないが、塩崎さんの絵を少し飾ってみてもいいではないですかーーと呟くように言われたのが、この春、現実になった。

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サブタイトルの「桜のレクイエム」は杉田玄館長の命名。
折しも美術館を囲む庭では山桜が満開だった。桜の木とその下に眠る女人を繰り返し描いた塩崎さんは、若き日に耳にしたフォーレのレクイエムを生涯愛したが、その曲には杉田館長も思い出があるという。
上越市の建築家大橋秀三設計の美術館は、こじんまりとして、微細な変化に富んだ美しい建物で、エントランスに続いて曲面の壁の絵画展示コーナーがあり、奥に広い陶芸展示室がある。
 斎藤三郎の今回は染付の陶器を展示した部屋の壁に、塩崎貞夫の油彩10点が飾られた。
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衣装が人を変えるように、場所は絵を変えてしまう。

その魔法を、今回ほどビビッドに感じた経験はない。建築の力、そしてガラスケースに展示された豊かな幸福感をたたえた陶器の力が、ふしぎな光となって、塩崎の絵を照らし、絵もまたその光に新しい響きを加えて場所を変容させた。

砂丘館で見た同じ絵が、同じ絵なのに違って見える。

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絵は美術館の一角の喫茶室にも飾られた。
SPレコードの家具のようなプレーヤーとコスモスの絵が、まるで古い知り合いのように馴染んでいる。庭から掘り下げたレベルに床のあるこの空間から、小動物の視線で開ける庭には桜の他にチューリップも鮮やかな色彩を点じ、まだ浅い春の歌を歌っていた。連休にはこの間隠れに見える田んぼが湖になるらしい。
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建物や庭とともに、寡黙な塩崎さんの絵も、静かに歌い出した。

(大)

*桜のレクイエム 塩崎貞夫展
樹下美術館 上越市頚城区城之腰451
10:00〜17:00
水曜休館(ただし祝日は開館)