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浮遊と着地

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5年前、34歳で亡くなった、内野雅文さんの写真展。

日々垂れ流される画像や情報の渦のなかで、内野さんのスナップ作品は、それほど大きなインパクトを持たない。
まち、ケータイ、こども、電車、季節、日常—ごくごく普通に、私たちが毎日の中に目にする、よくある光景のひとつ。を、とらえたに過ぎない写真のようでいて、その作品にはいつも、どこかに既視感があり、内野さんの“個”を特定する特別さはないようにも見える。

けれど改めて、砂丘館の入り口から、順番に飾られた内野さんの作品をなぞって見てみると、じーっと見つめたその画面には、ふわふわと浮遊するような、内野さんの旅の空気や気配、街を歩きながら撮影した、スナップショットの一瞬の、その数分の一秒の“間”のようなものが感じられて、そこに内野さんの姿を浮かび上がらせる。
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写された対象から少し離れて存在するのは、通り過ぎていく人と場所と時間を生きていた、永遠に着地しない、歩きながら浮遊するような内野さんの、撮影者としての感覚や眼差し。
その視線を感じていると、塗り重ねていく絵とはまったく違った「写真」という媒体そのものが、そのような、「浮遊し通り過ぎていくもの」でありつつ、画像という物体に「着地する」という、相反する側面を持った、奇妙なものに見えてくる。

あまりにカメラや写真や撮影が、安易に容易に身近なものになりすぎて、その行為自体を、手軽で、特に努力もいらない容易いものと、自分はいつしか厳しい目で見つつも、軽んじてしまっていたような気がした。(小)

内野雅文 写真展 とどまらぬ長き旅の・・・
2013年11月19日(火)〜12月15日(日)
会場:砂丘館 観覧無料
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by niigata-eya | 2013-12-08 06:23 | 砂丘館